[本]スター・キング エドモンド・ハミルトン
爽快感ー★★★★ プロフェッショナル度ー★★★ 泣けるー★★ 高揚感ー★★★★★ ハッピー感ー★★★ 重い、考えさせられるー★★ ハマるー★★★
SF作家、エドモンド・ハミルトンによるスペースオペラ小説です。
※スペースオペラとは、宇宙を舞台にした、いわゆる冒険活劇、いうなれば、スターウォーズ的世界です。
僕はこの本を中学生の時に読みました。読み終えた後、胸のとどろくような感動を覚えました。今読み返しても、胸が高鳴ります。面白さは衝撃的でした。
原作者のエドモンド・ハミルトンと言えば、やはり中学生だった僕が毎週火曜日の午後7時30分の放映を心待ちにしていたNHKのアニメ『キャプテン・フューチャー』の著者でもあります。それをきっかけに、『キャプテン・フューチャー』シリーズ(ハヤカワSF文庫)を読み、そして『スター・キング』を知りました。読み始めるやいなや、僕は話の世界に引き込まれるように、そのストーリーへと没入していきました。
以下、簡単なあらすじです。
主人公は、第二次世界大戦の太平洋から帰還し、今はニューヨークの保険会社員であるジョン・ゴードン。
彼は、夢の中で自分を呼ぶ声を聞く。声の主は、20万年もの未来から呼びかける、中央銀河系帝国の王子、ザース・アーンだった。ザースは語る。『意識』は時空を越えられる。自分は科学者で、過去の時代の人間と時空を超えて意識を交換し、人類の歴史を探求している、と。
意を決して、6週間の体の交換に応じたゴードン。しかし6週間の帝国王子となったゴードンには、想像を絶する事態が待ち受けていた。
ザースの目論見は、研究を手伝ってくれるヴェル・クェン以外には知らせず、ひそかに過去の人間と意識を交換し、人間探求をすることだ。ザースはこれまで、平和な銀河帝国の中で、静かに研究を続けてきたのだった。
しかし、折あしく、二人の意識の交換直後、中央銀河系帝国に対して、暗黒星雲(帝国)によるクーデターが勃発する。ザースの研究所は破壊され、ゴードンとなった”ザース”は、暗黒星雲側に捉えられてしまう。そして、二人の意識交換の事実を知る唯一の人間、ヴェル・クェンも殺されてしまう…。恐るべき暗黒星雲の魔手が、帝国に伸びようとしていた。
帝国と暗黒星雲の戦争に帝国王子ザース・アーンとして巻き込まれたゴードンがこの危機を脱し元の世界に帰るためには、王子として暗黒星雲をその野望ごと破壊し、中央銀河系帝国を救うしか道はないのだった。
~ところで、20万年の間には想像をはるかに超える変化があった(作中の解説)。人類は、「光」の速さを凌駕する「サブスペクトル」という超高速線を発見、併せて質量のコントロールなど様々なハードルを乗り越え、銀河系宇宙へと乗り出した。気の遠くなるような時間の中、地球人類はさまざまの歴史を紡ぎ、銀河系の数々の国家の中で、中央政府の地位(中央銀河系帝国)を築き上げていた~
ザース(ゴードン)は、追い詰められながらも機知を効かせ、そして太平洋の戦果を潜り抜けた勇敢さでいくつもの危機を乗り越えていく。そんな中、帝国のために体を投げ出すゴードンを支えるのは、帝国の友好国、フォマロート王国の美しい王女、リアンナだった。ゴードンは、リアンナと恋に落ちる。そんなゴードンを、最後の戦いが待ち受ける。
帝国には、10万年以上伝承される、『ディスラプター』と呼ばれる究極兵器がある。
アーン王家の祖先、ブレン・バーが、かつて帝国を崩壊の危機にまで追い込んだ強敵、マゼラン星雲からの侵略者を撃退した伝説の兵器、『ディスラプター』。しかしこの究極兵器は、銀河系をも破壊しかねないほどの威力を持つため、発明者のブレン・バーによって禁じ手として封印されてきた。
※どのような兵器なのかは、ぜひ、本編をお読みください。すごい兵器です。
『ディスラプター』の威力で暗黒星雲を撃退し、王家と帝国を守ったザース(ゴードン)は、本物のザースと交わした、二人が意識を交換していたことは決して他言しないという約束を守ったまま、リアンナに別れも告げず、一人20世紀へと帰っていくのだった。
ニューヨーク。
いつもの生活に戻ったジョン・ゴードンのもとへ、ふたたび『声』が届く。帝国に戻ったザース・アーンからの、言葉にならない感謝の声だった。
そして、もう一人の『声』は、ゴードンが愛したリアンナだった。
真実を知ったリアンナは、ゴードンに打ち明ける。自分が愛したのは、ザース・アーンではなく、ジョン・ゴードンであったということを。
涙するゴードンに、リアンナは熱く訴えかけた。
まもなくザースの研究で、『意識』だけでなく『肉体』も時間を越えられる!私たちは、もう一度会うことができるのよ!
目が覚め、窓からニューヨークの街を眺めるゴードン。夢だったのだろうか、否、あれは決して夢ではない。
私は帰る。あの帝国へ。
遥かな時、信じられないほどの時空を超えて熱く呼びかけてきた『恒星王国、スター・キング』の王女のもとへ!
これが、『スター・キング』のあらましです。そして、『スター・キングへの帰還』という二作目へと続きます。
『スター・キングへの帰還』では、ゴードンはゴードンとして時空を超え、恒星王国へ戻ります。そんなジョン・ゴードンと帝国を待ち受けていたのは、10万年前にブレン・バーが戦った相手、『マゼラン星雲』からの恐るべき侵略者だったのです。
この、『スター・キングへの帰還』も素晴らしいです。
僕は『スター・キング』を読み、二つ驚いたこと、というか少し考えてしまったことがあります。
一つ目は、いくら未来の話とはいえ、20万年先とは遠すぎやしないか、です。
反対に時間を遡れば、20万年前は旧石器時代です。もはや歴史の範囲を超え、ほとんど進化論的思考の世界じゃないか、と中学生の僕は思いました。しかし、あながちわからなくもない、なぜなら、その感覚はあくまで人間主体のものだからです。宇宙から見れば、20万年なんて大したことはないのかもしれません。仮に、宇宙が130億年前に誕生したのだとすれば、20万年なんて、0.0015%です。誤差とも言えないくらいです。この感覚で、時間を距離に置き換えても同じです。つまり、それほど恒星間飛行は難しい。我々の銀河系(天の川銀河)は、長さが10万光年あります。マゼラン星雲までの距離は16万光年です。アンドロメダ銀河へは、200万光年以上です。それだけ宇宙は広いということです。むしろ20万年程度で、よくここまで進化できた、ということなのかもしれません。
二つ目は、つい最近読み返して違和感を感じたことなのですが、帰還兵のゴードンが経験した『戦争』は、『第二次世界大戦の太平洋戦争』だったということです。『太平洋戦争』と言えば、76年も前のことじゃないか、と。しかし、冷静に考えてみれば当然のことでした。この小説『スター・キング』は、アメリカの連載開始が1947年、日本での初版の発売は1949年なのです。アメリカにとって太平洋戦争はおととし、日本の発売からみても4年前のことなのです。
それにしても、74年前の小説だったとは驚きです。
ついつい、今の感覚で考えてしまうので、帰還兵という設定であれば、その戦争はアフガン、湾岸戦争、どれだけ遡っても、ベトナム戦争と考えがちです。76年前の太平洋戦争だなんて…と違和感を感じてしまったわけです。しかし、です。時が過ぎ去るのは早いのですが、僕が小学生だったころ(40数年前)は、近所の大人で太平洋戦争に行った人がたくさんいました。その人たちは僕に、かの戦争での出来事をいろいろと話してくれました。今思えばかなりすごい内容の話もありましたし、いろいろな意味でもっと聞いておけばよかったと思います。それくらい、子供の僕には、太平洋戦争は『身近』な出来事でした。そんなことを思い出させてくれる、よい機会だったと思っています。
さて、『スター・キング』、いかがでしょうか。
この作品、映画化にならないものでしょうか。スターウォーズやアベンジャーズに匹敵する、いや、それを超えるものになると思うのですが。
ということで、ぜひ皆さんもお読みください。その感動を共有したいと思います。
余談ですが、『スター・キング』シリーズは三部作で、『Stark and the Star Kings』という、三作目があるそうです。しかし残念ながら日本語訳はありません。
いずれ日本語訳されれば、読んでみたいと思っています。
Apr,14,2021